「幸せになってね伊織くん」





私は ゆっくり手を ほどいて




バイバイ



手を小さく振った




私に背中を向けて




玄関で靴を履く後ろ姿に



何度も 何度も



抱きつきたくなるのを
必死に こらえて





伊織くんが玄関のドアノブを
掴んだ時




「ありがとうっ」



私は叫んでた



伊織くんは少し驚いたように振り返って



「ありがとう。
伊織くんとの恋は宝物だから」




笑ったつもりだったけど




目から涙がボロボロにこぼれて




「それだけ伊織くんに言いたかっただけだから行って

この涙は自分で拭わなきゃ

次の幸せ、掴めないからさ」




伊織くんは静かにうなずいて




家を出た




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