空
ガヤガヤと遠くの方で
注文を繰り返す店員の
威勢のいい声が聞こえた
「伊織くん…が…独り…」
私は渇いた唇で呟いた
それと同時に抑えきれない衝動にかられる
「てっちゃん………」
てっちゃんは目を伏せて
「オレは何も言えねぇよ
明日、婚約者来るんだろ?
だったら今夜がラストチャンスじゃねぇ?」
何も言えねぇ
そう言ったクセに
私は立ち上がって
バッグを掴んだ
「頑張れよ。後悔しないように」
てっちゃんの声を背中に聞いた
ありがとう てっちゃん
私は夜の街を走った