あの夜と一緒だ



私は伊織くんの背中に爪をたてて しがみついて



鼻先を胸に押し付けるように



彼の胸で泣いた




「もう無理だよ

伊織くんが独りなら
私は伊織くんのそばにいたい」



涙は頬を濡らして



泣き過ぎて 額に汗をかいた



それでも私は伊織くんに
しがみついて離れなかった




「ダメだ。風羽ちゃん……

君には他に選んだ人が……」



「今夜なら間に合う!
私はまだ結婚していない」


薄情で自分勝手な悪い女と


そう言われても構わない



こんな気持ちで


あの人と結婚なんて出来ない




伊織くんへの想いは


いつだって すぐ取り出せる距離に埋まっている




「婚約破棄なんて自分たちだけではなく両家を巻き込むんだよ?」



伊織くんが
冷静にそんなことを言う



だったら



「結婚してみて、

やっぱり伊織くんが好きだと

別れる方が大変だと思うけど」



こんなことを冷静に考えたわけじゃない


本音はどうでも 良かった


伊織くんを離したく………

ううん、離せなかった



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