今日も、恋する電車。
保は茜の葛藤に気づくことなく、また本を開いた。緑の表紙の本をぱらぱらとめくれる音を聞きながら、茜はゆっくりと目を閉じる。

狸寝入りをしていると、振動で、茜の体が左にふれた。

揺れにまぎれて茜はそっと保により添う。保は茜の頭をのけることなく、ぽんぽんと叩いた。茜の短い髪がさらさらと乱れた。

「おつかれ」

茜を起こさないようにと気遣い、小声でささやいた。息が耳にかかり、思わず声を上げそうになったが、慌てて眠ったふりを続けた。


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