あの頃へのラブレター
七通目…赤い郵便受け
君にいったい何通の手紙を書いた事だろう。

今思うと笑ってしまうけど、毎日のように出していたね。

電話だって毎日掛けていたのに。

そういえば、電話を掛ける度に、

「結局、貴方に返事をする内容を全部話しちゃったじゃない。」

と呆れられた事もあったね。

一回りも年下の君だったけれど、僕の方が何時も甘えていたっけ。

一緒に暮らすようになって初めて喧嘩をした夜、勢いで部屋を飛び出した僕は、一晩中街をふらついていた。

朝方、君が寝ていると思って、そっと帰ってみると、君は一睡もせずに起きていた。

僕の顔を見るなり、

「ばか!心配するじゃないの!」

と言って、僕の胸を何度も叩いて泣いた。

初めて見た君の涙。

二度と君を泣かすまいと、その時は思っていたのに……

二度目に君の泣き顔を見た夜……

それが君を最後に見た夜だった。


その何ヶ月後かに、一度手紙を出した事があったけれど、数日してその手紙は戻って来た。

あの部屋を君は、出て行ってるかも知れないと薄々判ってはいたんだ。

けれど、もしかしたらって……

嫌いになった訳でもないのに、どうして二人は別れてしまったのだろうと、今でも思う事がある。

「ごめんなさい、もうあなたを支えて上げられない…疲れた……」

それが最後に聞いた君の言葉。

情け無いけれど、あの頃の僕は夢ばかりを語る、ただの優柔不断な男だった。

毎晩語る僕の夢に、君は僕以上の真剣さで向き合っていた。

夢を語っている僕は、結局は何もしなかった。

ずっと僕を信じてくれていたのに、何も応えなかった。

この前、君と暮らしたあの街を久し振りに歩いてみた。

駅前はだいぶ変わっていたけど、あのアパートは今でも変わらずにあったんだ。

つい懐かしくて、僕は部屋の前まで行ってみた。

僕から毎日のように手紙が来るからと、君が取り付けた赤い郵便受け……

だいぶ古くなって色褪せてしまってたが、そのままだった。

夢の事……やっと、それに向かって歩けてる。

時間が掛かり過ぎたけど……

一言だけ……

ごめんねと、ありがとうを一緒に言ったら、おかしいかな?
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