Security Abyss 2
「やればいいだろう」
「?!」

戸部はイヤホンを外して周りを見渡した。音楽再生をしていたPCのウィンドウを漁る。男の声を再生するようなものは無い。

「こっちだ」

薄暗い部屋に溶け込むように、戸部に語りかけたのは黒い厚手のコートを着た男。手には鞄を持ち足元はよく見えない。靴を履いているようにも見えるし、厚手の靴下を履いているようにも見える。

「先ほど着信したメールは読んだか?」
「い、い、い、や、お、お前誰なんだよ!」
「メールの送り主だ。それだけでは不満か?」
「け、警察」
「警察にここに踏み込んでもらうのか。自首なら署に行ったらどうだ」

戸部は必死に考える。違法コピーした音楽、アニメ、映画、ソフトウェアが大量にあるこの部屋に来られてはまずい。自らの危険と今の状態を天秤に掛ける。どうすればいいかわからず、戸部は黒の男を睨み付けたまま動けなくなっていた。

「復讐したい相手がいるんだろう?」
「……だったらなんなんだよ」
「私はお前の悪意だ。お前の意思に肉付けされたものと考えていい」
「……悪意さん、話し方が俺と同じいじめられっ子っぽいよね、そうでしょ?」
「生憎、意識体が人をいじめるという事例は聞いたことが無いが、お前はあるのか、幽霊でもいい」

戸部は舌打ちをした。自分以上に人を撥ね付ける話し方をする奴に会ったのは初めてだった。

「で、その悪意さんは何の用?ご丁寧に事前にメールまでいただきまして?」
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