Security Abyss 2
「疲れた……これで終わりか?湯はどうするんだ?」
「あとは袋入りの瓶を袋ごと湯に浸ければ反応が進む。収率は80%程度だ。不純物が多いが、使う相手に気を使うことも無い」

男は右の口角だけを上げて笑うが、どこにも面白いところは無い。戸部は作業が進めば進むほど、心のもやもやが晴れていた。戸部はクラスの中では決して頭が悪いほうではなく、こういった細かい作業が好きだった。細かいところに気が付く性格は、普通なら褒められてもおかしくないが、学校という閉鎖空間の中では「いい子ぶっている」「点数稼ぎの卑怯者」という評価で固まってしまった。

反応は進み、ホースの先からは冷やされたクロロホルムが少しずつ滴っている。戸部は唾を飲み喉を鳴らす。頭の中で使う相手を列挙し、それぞれの生活パターンから、どこで使うのが一番いいかをシミュレートする。男が先か、女が先か。1日で終わらせるか、3週間ほどずつバラすか。いきなり襲うか、予告をするか。そんなことをしばらくの間は考えていたが、いい加減じっと反応を見ているのも飽きた戸部はまた漫画を取り出した。いま流行の、犯罪者を次々と殺していく漫画。漫画を読みつつ、反応を監視する。

「神を気取る気か?」
「そんなまさか、俺は現実の人間なのでね。それに漫画のキャラほど俺は顔がよくない」
「ごもっともだ」
「……」

予想外の返答に戸部は意表を突かれ、言うべき言葉が見当たらなかった。男の顔はよく見えないが、手や首から察するにかなり色が白い。声も、戸部でも知っている人気の声優に似ている。現実離れしているな、と思ったが、実際に現実離れした存在だったことを思い出した。

「そろそろ終わりだ」
「……?まだ泡が出てるし滴も」
「回収瓶からホースを抜いて回収瓶は元のフタをかぶせてしっかり封をしろ。反応瓶の袋ごと風呂場に持っていって大量の水で流せ。しばらく水は出しっぱなしにしておいて完全に薄まるまで流せ」

矢継ぎ早な指示に慌てながら、戸部は男に聞く。

「もったいないんじゃないか?」
「また買えばある。ギリギリまで反応させるのは危険だ」

戸部は作業を続けた。
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