エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》
―黒沢というのかこの男。

あの美佐子が珍しく信用して一目置く男なのだろう。

色んな事を任されている事から見てそれは間違いなかった。

「何でしょう お話って」

望は怪訝そうな態度を顕にして言った。

「ハイ。実は奥様がお話なされたいという事で車の中でお待ちですが……。」

―何! あの美佐子が来ているのか!

火菜が生まれた時、それが女と知ると否や

「女ならいらない。殺して!」

と言い放ったあの冷酷非道の悪魔の顔が脳裏を掠めたが、まさかイヤとも言えない。

ただ、自宅に招き入れる事だけは絶対に避けたかったので、

「分かりました。テレビのスイッチを切ったらすぐに参ります。車の中でお待ち下さい。」

望はそう言うと返事を待たずに中に入っていった。


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