エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》
……その時、望は食べたくもないカップラーメンを無理やり啜っていた。

心配事が多すぎて、胸が一杯で食欲などありゃしないのだが、これから起こるであろう様々な出来事に対応するためには何でもいい、取りあえず腹に入れとかなくてはと、普段はあっても食べない非常食と呼ぶに相応しいインスタント食品を非常時に食しているのだからまさに、備えあれば憂いなしというものだった。

台風がもうかなり接近しているのでテレビは台風速報一色だ。

どうやら台風は夕方の5時頃に最接近するらしい。

暴風域に入るのも時間の問題だ。

やはり早めにスパに行かないと台風のために閉店されたら、梓に会えなくなる。

そんな事を考えながら、更にラーメンを啜っていると、テレビがいきなり切り替わって、衝撃映像になった。

大きな川の中で大木に捕まる二人。

テロップは『九死に一生!!ホームレスの親子愛。』

と書いてある。

よく目を凝らして観ると確かに一人は年配者で、もう一人は若い少年だ。

カメラが少年の顔をアップで抜く。

すると望はその顔に見覚えがあった。

「……勇?もしかして勇じゃないの!?!」

望はラーメンを詰まらせそうになる程驚いて咽せかえった。
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