エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》
「勇、早く。行くぞ!」

仮眠室から出てきたサムは白衣を着たまま、急いで勇の手を引いた。

「サムさん。どうしたの?」

ポカンとしている勇に説明をしている場合じゃない。

「とにかく、急ぐんだ。」

サムは裏口へと勇を導いた。

非常口の手前に大きなランドリーボックスが備えてあった。

サムは急いで白衣を脱ぎ捨てると、財布を取り出し中から万札を一枚だけ抜いてまた財布を戻しておいた。

そして

――みつかりませんように……

と祈るような思いで白衣投げ入れた。

「さあ、出るぞ。」

サムが非常口に手を掛けた時、ブゥーブゥーブゥーという聞き慣れないサイレンが鳴りだした。

その音はあまりにも特徴がなくて、何の意味があるのか判らなかったが、サムには何となく自分に発せられている様な気がした。

「ああ、何て事だ。犯罪だけは犯したくなかったのに………。」


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