エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》

「ふーっ 良かったですね。金でカタついて……」

事務長室を後にした二人は大輔の待つ病室へと急ぎながら話していた。

すると美佐子が黒沢を睨みつけて、

「何が良かったのよ。後少しで勇を捕まえる事が出来たのよ。ああもう!!悔しいわ。」

今まで冷静を保っていた美佐子が段々と気持ちを高ぶらせてきたので、黒沢は肩を抱き寄せて

「さあ、もう病室ですよ。お父上に悟られますよ。気持ちを落ち着けて……。」

と優しく諭した。

美佐子も父にはこの件は話すつもりはなかった。

何があったかと聞かれるだろうが、適当に誤魔化すつもりだったので、病室の前でしばらく目を閉じて深呼吸を繰り返すと

「お父様。お待たせしました。」

と元気に扉を開けた。


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