エア・フリー 〜存在しない私達〜《後編・絆》

火菜は振り向いて、勇の顔を確認すると、その場に崩れ落ちた。

両手を真っ赤に染め、勇は泣きじゃくりながら、火菜からソッと果物ナイフを抜いた。

「……ううっ!」

火菜が苦しそうに体を丸めた。

「ひぃーな!! ごめんね。いたかったね。でもひぃ〜ながわるいんだよ。ぼくたち けっこんするって……ヒック…やくそくしたのに……グスン…どうしてうらぎるの?」

もはや勇の問いかけにも満足に答えられないほどに、急速に火菜の体から精気が抜け落ちていた。

「………でも、わたしたち きょうだい じゃない?」

勇が跪いて火菜に近付くと、

「ぼくたち きょうだいじゃないよ。ちゃんと お母さんにきいた。でも 火菜は やくそくをやぶった。でも ひとりには しないよ これからはいつも いっしょにいられるよ」

勇の言葉が段々と曇る意識の中で、ハッキリと聞こえた。

すると火菜の記憶が走馬灯のように遡っていった。


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