ことばのスケッチ
「赤ん坊の顔って、見ていて飽きないわね」
「百面相って、よく言ったものだわね」
「よく眠っているわ」
「どれどれ」
「触っちゃ駄目よ、今よく眠っているんだから」
「少しぐらい、いいじゃないか」
 私の手足になんだかごつごつしたものが当たるので、目を覚ましたがまだ何も見えない。何時までもごつごつ触るのがやまないので眠れない。睡眠の邪魔になるので「オギャーオギャー」と声を出してみた。
「おい、泣き出したよ」
「しようがないわね、折角いい気持ちで眠っているのに、起こしてしまって」
「すまん、すまん」
 なんだか胎内にいた時の匂いがして、ごつごつするものがなくなった。なるほどこうした時に声を出せばよいのか。それ以来ごつごつするものが触らなくなった。これで自分の思う通りに安眠できる。どれぐらい眠ったのだろう。いたたまれなくなって目が覚めた。この気持ちをどうにかして欲しいと思って「オギャーオギャ-」と声を出してみたら、ほっぺたを突っつかれたので、そちらのほうを向いた。
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