〜蒼い時間の中で〜
 そして翌日の昼、海の家でのバイトを終えた拓也は、バテ気味で帰宅した。鍵を開けようとすると、すでにドアの鍵が開いていたのだ。
「…泥棒か?  いんやクソ親父っぽいな」
 ドアを開けて中へ入る。気配を消しながら奥へと進んでいくと、風呂場から物音が聞こえてきた。これで泥棒の線は消えた。
「となるとやっぱクソ親父か」
 風呂場のドアに手をかけて一気に開けた。
「クソ親父! 一体いままでどこ行ってやがった……ってへ?」
「……え?」
 そこには拓也の父親でなはく、一糸纏わぬ生まれたままの姿の、綾乃がいたのだ。
「キャァァァァ!!!!!」
「うわっち!」
 叫びばれながら熱湯をかけられ、拓也は慌てて風呂場のドアを閉めた。
「なんで白石君がここにいるのよ!」
 奥から綾乃の悲鳴じみた声が聞こえてきた。
「ここ、俺の家だし」
「………嘘」
「痴漢発見! 捕縛開始する!」
 玄関から別の女の子の声が聞こえ、次にボン! と炸裂する音が聞こえてきた。すると目の前に大きく広がるネットが見え、そしてあっという間にネットが体中に絡まり拓也はその場に倒れこんだ。
「おじさん! 早く警察に電話!」
「おいおい。痴漢はけしからんなぁ」
 次いで聞き慣れた声が聞こえてきた。
「っざけんな! クソ親父が!」
「え? クソ親父ってもしかして」
 目の前の女の子が目を丸くさせ、驚いていた。
「ハッハッハ。そうだ。俺のバカ息子の拓也だ」
「…あ〜。ハハハ、えっとごめんなさい」
「………んもう。かなめったら」
 拓也の後ろでバスローブを巻いた綾乃が、顔を覗かせていた。
「そんで、だ。お前の後ろにいる綾乃ちゃんと、お前を捕縛したかなめちゃんだが、今日からここに住む事になったから、よろしく頼むぞ」
「………………え? 今なんて言った?」
 父親から何気なく言われたその言葉から、二人の時が動き出したのであった。
< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop