〜蒼い時間の中で〜
 夏休みもそろそろ終わりに近付いた頃、白石拓也は海の家でバイトをしていた。
「なあ? 一樹。俺、なんで夏の海でバイトしてるんだ?」
 隣でレジ打ちしている幼なじみの長谷川一樹に問い掛けてみる。
「あぁ? んなもん金が無いからに決まってるだろうが。俺はバイクのパーツ。そんでお前は生活費。世知辛い世の中だよな? どうだ? お前もバイクは。乗れるだろ」
「バイク? あ〜パスだな。維持する金がねえしよ。ほれっチャーハン出来たぞ」
 カウンターの上に出来上がったチャーハンを置く。それが終わるとまたフライパンを振る。
「いや〜お前が料理上手くて助かるぜ」
「っせーな! 早く持ってけっての」
「そうカリカリすんなって。お前が料理すげえから女の子だって入ってくるんだからよ」
「んなもん、見てる余裕なんか無いっての! それよかさっさと運べ」
「へいへい…って、おい! 拓也!」
 ついさっき料理を運びに行った一樹が、すぐに戻ってきた。
「んだよ? ってか仕事どしたよ」
「それどころじゃねえ。見ろよ。あれ」
「あん? 何がだよ」
 拓也がひょいと顔を覗かせると、数人の女の子のグループがいて、その中に顔見知りの女の子が混じっていた。
「我らが学園の生徒会長にして、アイドルの明石綾乃だぜ? ラッキーじゃん。んじゃちとお近づきになってくるわ」
 その足取りは先ほどとは違い軽やかだった。
「ったく。あいつは」
 そう言いながら、もう一度だけ綾乃を見た。
 明石綾乃。同じ一年にして白豊学園の生徒会長。ルックス、スタイル、性格。どれも完璧で成績、運動神経も抜群。才色兼備でアイドル的存在となっていた。告白された数も断トツだが、全て断っている。
「人間みな不平等ってやつか」
 拓也が再び料理を再開させてから、間もなくの事だった。
 何やら客席の方で騒ぎが起きているらしく、ざわついているのが厨房にも聞こえてきた。
 無視を決めようとしたが、そうもいかなくなった。
「ちょっと! 迷惑なんですけど」
 聞こえてきたのが、綾乃の声だったのだ。
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