〜蒼い時間の中で〜
 それから人数分の飲み物を買って、休憩した後夕方近くまで綾乃たちと遊び、拓也は再び海の家に戻りバイトを再開させたのだった。
「お前! ずるいぞ。なんであの明石と遊んでたんだよ。この俺を差し置いて」
 店に戻るや否や一樹の開口一番がこれである。
「んな事言ってもよ。あの時、一樹いなかったじゃねえか」
「……ぐっ。あのババアが余計な仕事を、俺に押し付けるからだ」
「おいおい。そんな事言ったら叔母さんに怒られるぞ? まぁ運が悪かったってのもあるだろうがな」
「あのババア。空気読めってんだよな。年代物間近ってのによ?」
「へえ? 一樹。誰が年代物間近で空気が読めない化石のクソババアだって?」
 後ろからゴゴゴゴ…と感じる殺気に、一樹はまるで壊れた人形の様に、カクカクと首を後ろに回した。
「あんたとはすこ〜し話し合う必要がありそうだね?」
 叔母さんが一樹の襟首を鷲掴みした。
「あっ。拓也君は休憩入って良いよ。さあ! 一樹! ジタバタするんじゃないよ!」
「助けてくれ! 拓也! 俺はまだ死にたくないんだ!」
 ズルズルと店の奥に引きずり込まれていく一樹に、拓也はただ合掌し見守る事しか出来なかった。
 ピシャンと扉が閉まりそれから店が静寂に包まれたのが、逆に怖い。
 肩を震わせ夜の海辺でも散歩しようと思い、店から出ようとした時だった。
「あの〜すみません…って白石君。良かった、まだいてくれて」
「明石? どうしたんだよ。こんな時間に」
「うん。花火やろうと思って」
 右手に持っていたビニール袋を持ち上げ、それから店の奥を見る。
「あれ? 長谷川君は? 一緒にやろうと思ってたのに」
「…………あ〜一樹ね。あいつは………」
 拓也はちらっと店の奥を見る。今も拷問を受けている真っ最中だろう。
「今立て込んでるから、きっと無理だな」
「ふ〜ん。そっか。だったらしょうがないわね。じゃあ二人でしましょ」
「お、おう」
 一樹のあまりの運の悪さにもう一度合掌し、拓也は綾乃と一緒に夜の海辺へと向かった。
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