生徒会長様の憂鬱
そんな身分違いの恋愛が上手くいくわけがない。
自分がそれを一番よく知っている。
援助の無くなった彼女の体は絶えられず壊れてしまい、たった一人の大切な娘を巻き込んだ。
鈴夏には幸せになってもらいたいと思う。
鈴夏が誰を想っているのかも分かる。
楽しげな彼女の声は、全て目の前にいる男に起因していることも。
それでも―――
二人を阻む壁は多い。
そうして彼女が、彼がかつての誰かのように辛い想いを、苦渋を強いられるならば。
二人の交際は得策ではない。
「夏樹さんが心配されるのも分かります」
沈黙を破ったのは冬真だった。
「でも俺は彼女の傍に居たいし、幸せにしてやりたい。どんな事があっても、諦めない。彼女が望むならどこまででも逃げます」
とても18には思えないハッキリとした口調に、まだ大人にだってなってない大人びた瞳に、夏樹は息を止めた。
―――…私は夏樹君の傍に居たいの。どんなことがあったって諦めない
「彼女が俺を好いてくれる限り、俺はどんなことがあっても守ってみせます」
―――…だって夏樹君は私を愛してくれているでしょう?それだけでいいの
ただ一人、唯一愛した女性の影が、冬真に重なる。
夏樹は繰り返すように浮かんでは消えるその影に言葉を失った。
それから暫く冬真を見つめていていたが、諦めたように今日何度目かのため息をついて己の両頬を軽く数回弾く。
「なんで金持ちってのは…非現実的なんだろうなぁ」
好きならなんでもいいと、そう言える自信。
過信とも言える、自分が幸せになれるという、相手が幸せになれるという、傲慢なそれ。
乗り越えた壁は辛かった。何も出来ない自分が不甲斐なかった。
それでも彼女が笑っていたから、幸せだと、心から言ってくれたから。
大切なモノも出来た。
(俺は、確かに幸せだった)
「認めたわけじゃないぞ、今は目を瞑っておいてやる」
絞り出すように夏樹がそういうと、18の彼は子供のように笑ったのだ。