生徒会長様の憂鬱
長めの前髪から鋭い眼光が覗いた。
要冬真は腑に落ちないという表情で私の手を握り強引に歩き出す。
「は!?なになんで!?」
ズルズルと子供を強制的に歯医者へ連れて行くような理不尽さと、突然絡まった手に何だか違う意味で絶望した。
恥ずかしい!
なんでこいつは人目もはばからず手を握ったりするわけ!
いや、周りに人なんていないけどさ。
心の準備が出来ないまま開かれた屋上の扉から漏れる冷たい風と瞳孔が痛くなるような明るさに目を細める。
「お、なんや二人してラブラブやなぁ」
視界が360°クリアになった瞬間、待ちかまえていたように降ってきた関西弁に空を仰ぐと、赤いゴムが揺れている。
腹ばいで肘をつき顔を乗せ、あくまでいつものスタイルだ。
「ラブラブ!?ラブラドールレトリバーの略ですか!?」
恥ずかしい!
要冬真の手を振り払うように左手を勢いよく振り上げると、彼は間髪入れずに私の頭を叩いた。
「痛い!なんで!?」
「うるせー、お礼いいに来たんだろ早くしろ」
えー!
なんで知ってるの?
もしかして全部口に出してた?
「今はな」
「ギャー!恥ずかしい!」
会話が成立してる感じ、怖い!恐怖!
「なんや見せつけに来たん?怒るでー、葵が」
「ホントだよ鈴、今からフェンス壊してピーターパンのウェンディごっこやろうか」
右京の横からひょっこり顔を出した葵が、彼の頭に肘をつく。
眉間にはシワが寄っているが、確実にいびる態勢だ。
誰がやるか!ウェンディは海じゃん!ここでやったら死ぬし!
思わず反論しそうになったが、ぐっと堪えてこちらを見下ろす二人を睨み上げる。
ここに何しに来たの鈴夏!お礼しにきたんでしょ!大人になりなさい鈴夏!
「あの!先日!」
突然軍曹のように声を張り上げたもんだから、隣に立っていた要冬真が驚いてこちらに振り返った。
ハシゴの上にいた右京はニコニコ笑ったままで、葵は相変わらず不機嫌そうに此方を見下ろしている。