生徒会長様の憂鬱
「色々お世話になりました!ありがとうございました!」
90°しっかり頭を下げて顔を上げると、右京は思い立ったように足をばたつかせてニヤリと笑った。
「まぁ、俺んは見張ってただけやし、葵は召使いとして、痛っ!」
「召使いって何沈めるよ」
葵はやっぱり“召使い”が気にくわないらしく彼の背中にエルボーを食らわせた。
痛がる右京を嬉しそうに眺めながら、葵はそこから飛び降りて綺麗に地面へ着地する。
軽々とこなすその様は流石だ。
私達と同じ高さで立ち、後を追いかけるようにハシゴを降りる右京を置いてこちらに歩いてくる。
「鈴、僕がさ、誰かに指図されて動くなんてありえると思う?」
「いえ!ありえません」
一応助けてもらった立場なので相手の神経を逆撫でするような事はできないが、とりあえず遠回しにヤツを精一杯否定してみる。
「そうだよね、よく解ってる。それほどのことを僕はしたわけ」
悪魔のような笑みだ。
確かに、彼の中で指図されて動くという行為はナマケモノの全力疾走に相当する程珍しい。
「お礼、してくんない?」
「お礼?」
ヒヤリと背中に寒気が走った。
とてつもなく嫌な予感がする。
「一生奴隷になって」
「シネ!」
下手に出てた事を一瞬で忘れて右足を振り上げハイキックを食らわそうとするも、すべて見透かしたような動きで葵は間合いを取る。
「鈴は僕に一生勝てないよね」
私の蹴りをいとも簡単に避けやがってマジでシネ!
間合いの外から胡散臭い笑顔を浮かべて人を貶してくる葵を睨みつけていると、漸く地面に降りた右京が彼の後ろから顔出して子供のような目でこちらを覗いて一言。
「俺、お礼なら抱擁とキスで、ガハッ!」
全てを言い終える前に要冬真の鉄拳により沈んでいき。
「おい、もういくぞ」
そして強引に腕を引っ張られ、私と彼は逃げる様に屋上を後にした。