生徒会長様の憂鬱
205…、ここか。
二階の一番端。
可愛らしい丸めの文字で“仁東”と書かれたそれは正に見慣れた彼女の文字だ。
何故こんな汚いアパートで一人暮らしをするような人間があの学校に来ているのか、そんな疑問が頭をよぎったが今はそんなことどうでもよい。
早くこいつを背中から下ろしたい。
――胸当たってんだよ…なんかイヤだ
「おい」
背中で寝ている彼女を軽く揺らすが、反応する様子はない。
「鈴夏」
試しに名前を呼んでやると、ピクリと指先が動いてゆっくり奴が顔を上げた。
「鍵出せ、鍵」
「かぎ?」
「おまえんちのだよ」
数秒の沈黙の後、言葉の意味を理解したらしく俺が持っていた彼女の鞄を指差し、前のポケット。と呟いた。
指示通りに漁ってやると、出てきたのはシンプルな家の鍵でキーホルダーさえ付いていない。
女らしくないと思いながらも、俺は鍵を開け扉を開け、小さなパンプスや運動靴の横に自分のローファーを置いて、彼女の靴も脱がしてやる。
とりあえず、揃える余裕はないので適当に置いてやり足を踏み入れた。
――…狭いな
俺の部屋の三分の一くらいだ。とはいえ、こういう庶民じみた家に入るのは初めてなので、好奇心にバスルームらしき扉を開けてみる。
バスルームに至っては、狭すぎて入る気がしない。
女性らしい小物はあまりないが、生活感溢れる部屋だ。
勉強机にノートパソコン、小さすぎるテレビ。
そして、小さなベッド。
「おらサル、着いたぞ」
背中から彼女を座らせるようにベッドに腰を下ろして、ゆっくり手を離す。
柔らかい感触に気が付いたのか、ヤツは少し嬉しそうに横になった。
ゆるりと開く目元は、ぼんやりと此方を見上げている。
「ありがと」