生徒会長様の憂鬱
えーっと。
帰ってくるの早くない?
要冬真は私の顎からサッと手を離し誰にも聞こえないほどの大きさで舌打ちをした後、ユキ君に視線を投げた。
「一人か?海は――…」
その口元が何か言おうと開いた瞬間、何かに気付いて数回まばたきをする。
その彼らしくない表情に吹き出しそうになりながらマジマジと扉前に立つユキ君を見直すと、白い頬に映える真っ赤な筋が走っている。
「あれ、どしたのその傷」
私がそう声をかけると、思い出したように顔を歪めて頬の傷を一撫でしたユキ君は自分が居たソファーに座って私達の向かいで盛大なため息をついた。
「悠にやられました」
腫れ上がったミミズをモノともせずこちらの返答を待つユキ君に、要冬真は怪訝な表情で背もたれに背中を置いて完全にリラックス体制に入る。
なんでこの人は何事も無かったように振る舞うわけ?
結構恥ずかしいシーン見られたよ?
私今すぐ走り出したいんだけど!
「海がお前に反抗するなんて珍しいな」
要冬真が腕を組み、溜め息をついた。
確かにそうなのだ。
私が羞恥心に負けずここにいるのは、海ちゃんの事が気になるから。
海ちゃんは基本的に、要冬真のお節介には反抗心剥き出しだがユキ君相手だとかなり素直に言うことを聞く。
そもそもにして、あまり他人に干渉しないユキ君が要冬真の命令時にしか動かないので、対海ちゃん用みたいになっていたし、彼女だってそれはそれで嬉しい様子だったのに。
いつもより早く帰ってきたユキ君は一人で、しかも綺麗な顔に妙なひっかき傷をつけて。
「いつもは多少ゴネても言い聞かせればついてきたんですが、今日は門前払いで無理やり連れていこうとしたら引っかかれました」
「どうしたんだろうね、イライラしてんのかな」
「ったく、世話のやけるやつだな」
本日何回目かの、ヤツの溜め息が聞こえた。
半分くらいお前のせいじゃん!
とは怖くて言えなかった。