生徒会長様の憂鬱
「へー、じゃあユッキーが何かしたんじゃない?」
今までの過程を簡単に説明すると、ハルはシャベルをバケツに放り込んで首を傾げた。
「本人にきいたら?」
「え、本人に聞くって、なんて」
「“ゆうちゃんに何したの?”って」
そんなストレートに?
少しばかり戸惑いを感じるんですが…。
そう思ったのも束の間、ハルは私の手を取って歩き始めた。
耕された花壇を避けながら彼は一つの窓の前に立ち、数回ガラスに振動を与える。
手のひらが叩きつけられ窓がしならずに揺れた。
そこから見える室内を覗くと見慣れた風景。
広い空間にソファーが二つ、私達の目の前にはガラス越しだが立派な社長椅子が見える。
窓を叩く音で今日の悪の元凶・要冬真が振り返りソファーから立ち上がるとこちらへやってきて窓を開けた。
「海は」
開口一番がそれかい。
「私もダメだった。逃げちゃった」
「ユッキー!」
私と要冬真の会話を遮るようにハルが呼んだ名前は、こちらからもよく見える真顔で資料を眺める今日の事件の要因かもしれない人物のそれ。
私達を気にする様子もなく資料一点に注がれていた大きな三白眼がこちらを見た。
「ゆうちゃんになにしたのー?」
「…、はい?」
ワンテンポ遅れて、真顔が崩れ妙な顔つきになった。
まさに不服を全面に表現した表情だ。
「なんで俺が悠に何かしなければいけないんですか」
「だって本人が言ってたよー」
「慧、なにかしたのか」
黙って二人の会話を聞いていた要冬真がユキ君を振り返った。
半ば責められるような視線に、彼は面を食らったような顔をして仕方なしに眉を顰める。
考えているようだ。
しばらくそのままの表情で固まっていたユキ君は手元にあった資料をテーブルの上にゆっくり投げて、首を傾げた。
「特に思い当たる節がないんですが」
「んー」
ハルが唸った。
そりゃそうだ。
傷を触る彼の手は理不尽だと主張していたのだから。