生徒会長様の憂鬱
「どうぞ」
「ありがとう」
鈴臣は目元を細めて緩やかに笑う。
私の出した湯のみに口をつけてから、テーブルの上にゆっくり手を置いた。
スーツ姿で気品あふれる高級な大人。
赤がベースのコタツが恐ろしいほど似合わない。
鈴臣さんの後ろにはタンスと、それから執事が一人。
少し前、社長室に乗り込んだ際に居たマネキンのようなあの人だ。
私はその二人を交互に見比べながらも、内心死ぬ思いで彼の言葉を待っていた。
升条の家の人間ということは、金返せ…とか…?
やばいやられる。
沈められる!
こんな密室で袋のネズミだわ!くそうなんて用意周到な作戦…
私のせいじゃん!
アウェイよりホームとか言ったバカは誰だ死んでしまえ!
「申し訳なかったね」
「え!いや!マグロ漁船だけは!」
「うちの社長のワガママに巻き込んで」
「…、ん…?」
慌てて弁解に入った私の言葉は全く耳に入らない様子の鈴臣さんは、俯き気味にこちらを見上げて申し訳なさそうに目を伏せた。
「秋斗くんから話を聞いた時は驚いたよ。鈴実は昔から体を弱くしていたけど意志の固さは極道ものだったから、君なら好きな人を選ぶだろうってすぐ分かった」
鈴臣さんは何かを思い出すように私を見つめて楽しそうに笑う。
何故か、ドキリとした。
一瞬、写真でしか見たことのない母さんが脳裏を過ぎったから。
「夏樹さんと鈴実の子供って感じ。想像通りでビックリした」
むず痒く耳を撫でる言葉に私は何も言えず俯いた。
「鈴臣様、時間があまりないようですが」
「あぁそうだった。ホントは用なんかなかったんだ。君と話がしたくて」
母さんのお兄さん、ただそれだけなのにこんなにも安心するのはなんでだろう。
「今度は一緒にご飯でも食べにいこう」
「はい!」
「これ僕のケータイ番号。なんかあったらかけてきて」
手に乗せられたメモ用紙を握りしめ、私は意を決して立ち上がった。
「あ、あの…!」