生徒会長様の憂鬱



ガン!と、鈍い音が店内に響き渡った。



「…なにやってるんですかアナタは」



呆れたような久遠寺くんの声が遠めに聞こえる。


痛い…。


めっちゃ痛い…。



しかしちょっと今は心の準備が…それ以前に痛くて顔あがらん…!



「鈴夏様、なにされてるんですか」




小鳥のような声。
懐かしすぎて目尻が熱くなる。
時間を共にしたのは数ヶ月なのに、“様”と呼ばれることには最後まで抵抗があったのに。


凄く嬉しいなんて。




やばい…泣く…。




「鈴夏さん」



「い゛っ…!」



頭をガシッと掴まれ無理やり視界がクリアになる。


目の前には楽しそうに笑う久遠寺くんの目元。



――…楽しんでる…!




なんと影の鬼畜とはこの事!
前髪を人差し指でよける彼の指先が異様に冷たい。



「額赤いですよ」



クツクツと喉を鳴らすような久遠寺くんの笑顔は偶にしか見ることの出来ない無邪気な表情。


「あ、注文ですが、ショートケーキとコーヒーと、鈴夏さん、飲み物は?」



「えーっと…じゃあアイスティ…、ギャッ!!」




「…かしこまりました」



一瞬、深月さんの事忘れてた!

鉄仮面ウェイターは無表情に右手でペン伝票に何か書き込んでいる。
執事時代の手帳に何かを書き込む姿が頭をよぎり一瞬動きが止まってしまった。



「鈴夏様、久遠寺様、お久しぶりでございます。ではゆっくりと」



懐かしい口調でスマートに踵を返す深月さんは、昔のように長い髪は流れない。

昔乾かした時に感じた柔らかい髪の感触。


あんなに短くなっちゃって…じゃない!


今はそういうことじゃなくて!
完全に今の深月さん…怒ってましたよね!?
基本無表情、いや一見無表情だからあれだけど私には判るよ!

あの感じ…!




「なんか怒ってる!!」



「え?そうですか?いつもあんな感じだった気がするんですが」



「いやいや!私には判るよ~あれは怒ってる!やっぱ来ちゃいけなかった?」




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