生徒会長様の憂鬱
「ちょっ…まって深月さん」
関係ない。
確かに私達を繋いでいたのは升条家で、私が升条家に関わりがなくなった上に彼も升条家に仕えなくなったのだから、本当に赤の他人なのだ。
でも。
私が升条家の社長と会うために花嫁修業をしたときだって、“寂しい”って言ってくれた。
『丁重に結婚の話も断って、親父と暮らすように交渉して、完全に縁を切る』
『寂しいですね』
『え?』
『私は升条家の人間ですから』
『いや!深月さんは別だよ!一緒に買い物とか行こう』
『そうですね』
「鈴夏さん?」
「…っしかに…」
「はい?」
「確かに言った!絶対言った!ゴルァァァァクソ執事!」
怒りに任せて立ち上がれば辺りに机を叩く鈍い音が広がった。
私が足をぶつけただけであるが、意味不明な因縁にも似た大声と重なって酷くガラが悪いチンピラみたいに見えるだろう。
キッチンに入ろうとしていた深月さんも驚いて振り返った。
久遠寺くんの笑いをこらえる音を除いて静まり返った店内。
周りの客が恐怖におののく視線をよこしている。
――…しまった…ショックでついチンピラのような真似を…
執事とお嬢様の縁が切れても仲良くしよう。
それは確かに交わした約束。
だけどよくよく考えれば、それは普通の流れで私と升条家の縁が切れたらの話であって、エンディングは半ば逃げるような形で終了した。
あの約束は、無効以外でもなんでもない。
そればかりか、私の迷惑で執事を辞めて今働いているこの場所でも私は、迷惑をかけようとしている。
迷惑にわめき散らす客の私と深月さんに関わりがあると分かればきっと、責任を取るのは彼だ。
「ひ…ひつじ、ひつじ…ラム肉を買わないといけないんだった!ごめんちょっと帰るわゴメン久遠寺くん!」
苦し紛れに文章を作ると、先ほどまで肩を震わせていた久遠寺くんは吹き出して笑い始めた。
「あ、あのうるさくてごめんなさい二度と」
――…二度と来ないから