生徒会長様の憂鬱
とにかくどうしようか迷って10秒でケーキを食べアイスティを咽せる早さで一気飲みして、財布にある有りっ丈の小銭をテーブルに叩きつけて店から飛び出した。
あー私も出ますから、と言う声が聞こえた気がして逃走100メートル地点で振り返ると、白い息を吐きながらマフラーを片手に出てきたのは久遠寺くん。
気温の急激な変化で赤く血の気を帯びてきた白い手は軽く握られており、出すよう促された手のひらの上で控えめに開かれる。
擦れる金属音と共にヒヤリとした感触を感じ軽く身震いをしながら覗きこむと、手のひらに乗っかったのは大量の一円玉だった。
「え、なんの嫌がらせ?」
「何言ってるんですか。それ全部アナタのですからね」
「え゛」
どうやら財布に入っていた有りっ丈の小銭は全て一円玉だったらしい。
「こっちが嫌がらせかと思いましたよ」
確かに。
「それより良かったんですか?執事と話さなくて。アナタらしくないですね、逃げるなんて」
久遠寺くんはマフラーを巻き直しながら、目だけで喫茶店を振り返った。
「いや、迷惑かけちゃいけないと思って」
「迷惑、ですか」
彼は私の言葉の端を捕まえて確かめるように復唱する。
迷惑かけているのはまぎれもない事実だし、それは深月さんの態度からも明白。
どうしようもない怒りを覚えた時、相手の謝罪が憎たらしく感じることだってあるわけで。
職をおわれた彼なら尚更、私にどうしようもない怒りを覚えるのは仕方ない話だ。
「嫌われちゃったし」
――…自分で言って落ち込んだんですけど…
「迷惑かどうかは別として」
俯いた私の視界の隅で、白い空気が浮かんで消えた。
「嫌われてはいないんじゃないですかね?」
感じた人の気配と久遠寺くんの言葉に顔を上げると、そこには少々息を荒げた青い髪の男が立っている。
「み、つきさん…」
譫言のようなセリフは、白い息と混ざって殆ど聞こえなかっただろう。