生徒会長様の憂鬱
「じゃあ鈴夏さん、貸し“1”でお願いしますね」
――…貸し…、だと…?
久遠寺くんは私の表情を確認して楽しそうに笑った後、隣にいた深月さんを通り越して道の奥へ消えていった。
般若心経のような顔をしている私と、何も話そうとしない深月さんの間に冷たい空気が流れる。
とにかくだ。
久遠寺くんが作ってくれたチャンスを逃しはしない!
一言だけ!
ごめんなさいって…!
「申し訳ありませんでした」
言わせて!
って…!
「えー!なんで!なんで深月さんが謝る?訳分からん!深月さんなんもしてないし?したの私だし……、えっと…」
彼らしい90°のお辞儀。
なんで謝られた!?まさかケーキに呪いでもかけたか?恨みすぎて!
いやでも!それくらい恨まれることを私はしてますから!
「いえ!私が悪いんですごめんなさい!」
負けじと頭を90°に下げる。
「私のせいで執事…やめさせられたんですよね!?それでこんな所でバイトをぉぉ!」
「違います鈴夏様」
「はえ?」
「私は自分の意志で執事をやめました」
ですから顔を上げてください、深月さんはそう付け加えて私の両肩に手を置いた。
「辞表を出しました」
顔をあげると、少しだけ違和感のある青色の短い髪が揺れている。
「だって、その原因って…」
「キッカケではありましたが、原因ではありません」
「それって同じじゃん!」
「違いますよ」
深月さんが笑った、ような気がして息を呑む。
優しい目元は、確かに彼だったがこんな優しげな表情は初めて見た。
「執事はいついかなる時もお嬢様を一番に行動しなければいけない。主の幸せが、私達執事の幸せです」
いつか言っていた言葉。会って間もない頃の深月さんを思い出す。
「無理やりの婚約が決まった時から、貴方は笑っていませんでした。気付いていたのに、貴方の為に動けなかった」