生徒会長様の憂鬱
「深月さん!!!」
私は、彼の言葉を最後まで聞かずにゆっくり上下する胸元に飛び込んだ。
嫌われてなかった!
それが嬉しくて、深月さんの細い腰に思い切り両手を回す。
男らしいその体が一瞬戸惑う様に動いたのが分かった。
それでも逃げようとしない、その事さえも嬉しくて口元が緩んでしまう。
嬉しい。
「関係なくないよ!」
「鈴夏様…」
「私、深月さんに世話をやかれたい」
深月さんの制服。
前は高そうな洗剤の花畑みたいな匂いだったのに、今は砂糖まぶしたような甘い匂いがする。
ゆっくり顔をあげると、勢い良く顔を背けられた。
「うへ?」
何故に顔を逸らす。
よく見ると耳が真っ赤だ。
「深月さん、寒いの?」
「いえ…、なんでもありません」
深月さんは一つ咳払いをして、私を見下ろした。
いつもの無表情。冷たそうな目。
それでも暖かい眼差し。
頬は冷たい風で痛いくらいなのに、体は暖かい。
「髪切っちゃったんだね」
呟く様にそう言うと、彼は思い出した様に右手自分の青い髪を撫でた。
それからすっかり短くなったその先を指先で確認する様に滑らす。
「飲食店に、あの髪はいただけませんから」
「そっか、私はどっちも好き」
もう一度確かめる様に、私は深月さんにゆっくり抱きついた。