生徒会長様の憂鬱




久しぶりであっても豪邸具合に慣れない私は、訪問自体4度目になる。


ヤツが風邪引いた時と私がびしょ濡れになった時と婚約会見から逃げ出した時と、今日・びしょ濡れになった時。


二分の一はびしょ濡れである。


今は殆ど乾いてるけど。



半ば無理矢理腕を掴まれ家に連れ込まれ、まぁお久しぶりです仁東様!と挨拶するメイドさん達の間を縫いながら辿り着いたのはやはり要冬真の寝室だった。


相変わらず床が腹立たしいほど柔らかい。
持って帰りたい。
がハサミがない。



という流れはこの部屋に来るときの恒例になりつつある。

だだっ広い部屋にあるキングサイズのベッドの上には、何やら動く影が見えた。



「あー!…、犬!」



「ジョセフだ。いい加減覚えろバカ」



私は要冬真から逃げるように掴まれた腕を振りほどきベッドへ走る。


踏み切ってダイブすると柔らかい毛布が振動でゆっくり跳ねた。
ジョセフは全く驚く様子もなく私を振り返った後、いそいそとベッドを後にした。


金色の毛が視界から消える。


それを横目で見送ると、耳元で布団が沈む音が聞こえた。
不意に香った甘い匂いに我に返り振り返ると、長い指が置かれている。

重みで沈んだ毛布の先で、要冬真が腰をかけたまま私を見下ろしていた。



無表情だ。




腰を捻るようにして暫くそうしていた彼は、ゆっくり体の向きを変えて足までベッドの上に乗せた後、アグラをかいて今度は真正面から私を見下ろした。


右手がゆっくり伸びてきて、前髪によって乱れていた視界が次第にはっきりしてくる。


要冬真の冷たい指の先が額を掠めて、自分の前髪が触られていることに気付いた。




「ぅひっ…」




喉元から声にならない声が漏れる。
好意を寄せている相手に触られるというのは、私には慣れない事でそもそも人を好きになったのが初めて、そう初めてだからしてそんな私と百戦錬磨っぽい生徒会長様では積み重ねた経験値の差があるわけで。


こんな流暢に思いを巡らせているんだから結構余裕かと思われがちですが、そんなことはない。
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