底無し沼
「囚われた桜は」
「高倉くーん!」
遠くで、君の叫び声がする。
「どうした、水野?」
ホースから飛び出す水は、君みたいに太陽の光で輝いている。
「ごめん、私今日、日直日誌書けなくなっちゃって……」
「……そう、あいつと帰るの?」
「うんっ!」
そう笑う君はあいつが居るから、輝いている。
その事実が憎たらしい。
「楽しみだね」
「えへへ、すっごく楽しみ」
笑顔で僕は君に尋ねる。
だが笑顔の裏ではあいつを憎たらしく思い、君を……あいつという、太陽の光が届かない場所へ連れていきたい――っ
なんて思ってる。
しかし、そんなことを思いながらも、君の笑顔をみていると。
「じゃ仕方無い、いいよ、あいつと楽しんでおいで」
「うん、ありがとう!」
「いえいえ」
何故だろう。
心が暖かくなってくる。
だから僕は、君への気持ちを閉じ込めようとしているのかな。
心の奥底にある、どろどろした感情と共に鍵をかけて。
だから……太陽よどうか。
水野の心を傷つけないようにして。
じゃないと、僕も水野を傷つけて苦しめてしまうから。
「水野を太陽の光が届かぬ場所に閉じこめたい、と……願い思って行動しちゃうからさ」
小さくなってしまった、君の後ろ姿を抱き締めたくなる気持ちを抑え、僕は君に手をふった。
「さて、そろそろ水やりを止めて水を止めるか」
先ほど、君が来る前の時みたいに冷ややかな目で、花壇の隣の水溜まりを眺めた。
僕が一ヶ所に何十分も水をかけたせいで、泥水が流れだし、どろどろになってぐしゃぐしゃになった花壇には目向きもせず、ただ、花壇の隣の水溜まりが映す綺麗な空を冷ややかに見つめていた。