底無し沼

「独りぼっちで」



ブッブッブ
マナーモードにしていた携帯のバイブ音が、静かな部屋に響く。
「ん……誰や」
寝起きを思わせる、掠れたテノールボイス。


枕元に置いてある携帯を手にとる。
知らん番号やな……
「はい?」
〈あ、こうちゃん?〉
「……愛里」
〈元気やった? うちは元気や!〉
「元気やで、愛里も元気か……良かった」
〈……なあ、こうちゃん〉
「ん?」
〈好きやから〉
「俺も好きやで」
〈……浮気してない?〉
「してない」
〈そっか〉
「そーや」
お互い、愛しい人に笑みの含む穏やかな声で話す。
しかし。
〈じゃあな〉
「うん、またな」


ブッツーツーツー


「ふ、バカやな愛里は」

俺は愛里と恋人同士なんて思ってないのになあ……


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