苺祭的遊戯(ショートストーリー集)
「それでー、谷田陸がね。
 わたしにボールをぶつけてくるからぁ。
 投げ返したの、ごう、ガツンとね。
 ……お兄ちゃん、聞いてる?」

生返事を見抜き、都さんは俺の胸から顔をあげた。
至近距離で見つめる黒い瞳は、まだ、官能の何たるかさえ知らない無垢な色で。

俺は思わず視線を逸らす。

「お兄ちゃん?」

もちろん、事情のかけらも知らない彼女がそんなことを許してくれるわけもなく。
そのまだ僅か小さな手で、俺の頬を挟んでくる。

「聞いてますよ。
 ドッジボール、最後まで残った話でしょう?
 最終的にはどちらが勝ったんですか?」

「結果が出る前に、チャイムがなっちゃったの。
 引き分けよ、引き分け。
 後5分あったら、絶対にわたしが勝ってたのに」

……後、5年経ったら、俺のモノになってくれますか?


聞きたい気持ちを、心に飲み込む。
まだ、彼女はそんなことを話せるような年齢ではない、から。

頭では分かっているつもりなのに。
感情は既に、暴走を始めている。

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