苺祭的遊戯(ショートストーリー集)
・おぼれた男1(09.05.18)
君におぼれた哀れな男で5のお題
1.君のいない日は色がなくなり、空虚で何をする気も起きない。君が僕の全てだ。
安倍龍星はゆっくりと瞳を開ける。
隣に居るはずの、愛しい姫が居ないことに気がついて無意識に抱きしめようと伸ばした腕をそっと元に戻した。
家に帰るよう、突き放したのは自分なのに。
戻した手をぎゅっと握り締める。
瞳を閉じれば、すぐ傍で無邪気に笑う毬の姿が脳裏を過ぎる。
手を放すべきじゃなかった。
そんなのは、考える前に分かっていた。
帝の説教を受けるまでもない。
だけど。
彼女は、高貴な家の出で。
望めば帝の妃にだってなれる立場なのだ。
それを。
自分の愛欲で、傍に留めて置くことが。
本当に正しいのか。
龍星には、判断がつきかねていた。
ゆっくりと庭に出て、空を見上げる。
一人で見上げる空の、味気なさに無意識に舌打ちをしていた。
用事は溜まっているはずなのに。
動き出す気が起こらない。
今、したいのは、毬――。
この腕に、貴女を強く抱きしめることだけ、だよ。
と。
心の内で呟いて、ようやく。
彼はいつも氷の君と言われるような、冷たい無表情を取り戻したのだった。
Fin.
1.君のいない日は色がなくなり、空虚で何をする気も起きない。君が僕の全てだ。
安倍龍星はゆっくりと瞳を開ける。
隣に居るはずの、愛しい姫が居ないことに気がついて無意識に抱きしめようと伸ばした腕をそっと元に戻した。
家に帰るよう、突き放したのは自分なのに。
戻した手をぎゅっと握り締める。
瞳を閉じれば、すぐ傍で無邪気に笑う毬の姿が脳裏を過ぎる。
手を放すべきじゃなかった。
そんなのは、考える前に分かっていた。
帝の説教を受けるまでもない。
だけど。
彼女は、高貴な家の出で。
望めば帝の妃にだってなれる立場なのだ。
それを。
自分の愛欲で、傍に留めて置くことが。
本当に正しいのか。
龍星には、判断がつきかねていた。
ゆっくりと庭に出て、空を見上げる。
一人で見上げる空の、味気なさに無意識に舌打ちをしていた。
用事は溜まっているはずなのに。
動き出す気が起こらない。
今、したいのは、毬――。
この腕に、貴女を強く抱きしめることだけ、だよ。
と。
心の内で呟いて、ようやく。
彼はいつも氷の君と言われるような、冷たい無表情を取り戻したのだった。
Fin.