苺祭的遊戯(ショートストーリー集)
普段、留守ばかりさせていて悪いと思っている。
けれども。

――では、どうすれば良いのだ。

女官として、本当にここに入れることは得策とは思えない。
――この男は今でさえ、露骨に彼女を狙っているのだから。

転びそうになる幼子に一番に手を差し伸べたのが毬だった。
何が可笑しいのか、音声が聞こえぬので分からないが、その表情には幸せそうな笑顔が溢れていた。

思わず、拳を握り締める。
そうしておかなければ、今すぐにでも彼女をこの腕に抱き寄せて連れ帰りたくなる自分を制御できないからだ。

その笑顔を、自分のためだけに見せて欲しいと。
籠の鳥になって欲しいと――。

願うのは、我侭だと、分かっているけれど。

「無理だよ、龍星。
 いくら、都随一の陰陽使いでも、あの子をずっと閉じ込めておくことなど出来ぬ」

帝の言葉に、耳を貸すのも嫌で。
でも、言い返すのも、癪で。

俺は言葉を発さない。

ただ、心の中で、祈るだけだ。

――願わくば、ずっと。俺の傍に、居て欲しい。
俺のためだけに、笑っていて欲しい、と。

Fin.
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