苺祭的遊戯(ショートストーリー集)
・看病
「ただいまー」
いつものように、お邸に帰る。
すっかり寒くなったので、コートは必需品。
「お帰りなさい、都さん」
出迎えてくれた清水さんは、まるで、本物の執事よろしく、コートを受け取ってくれた。
「うがい、手洗いしてきてくださいね」
前言撤回。
これじゃ、執事というより、口うるさい母親じゃない。
あのね、私ももう15歳なの。
そんなこと言われなくたって――。
いや、言われなきゃしないか。
「どうして、わざわざ?」
いぶかしむ私に、清水さんは涼しい顔で言う。
「次期総長が、インフルエンザでお休みされているんですよ。きっと、流行ってるんだろうと思いまして」
「え、大雅、倒れてるの?」
思いがけない情報に、目を丸くする。
「ええ、昨夜から急に寒気がしたらしくて。タミフルを飲んで、寝てらっしゃいます」
「お部屋で?」
大学生になった大雅は、外に自分のマンションも持っているので、確認が必要だ。
「ええ、昨夜帰ってらっしゃいました」
……知らなかった。
「都さん、とりあえず手洗いうがいをしてからになさってくださいね」
思わず、大雅の部屋に直行しようとした私の背中に、清水さんの言葉が飛んでくる。
……確かに。
言われたとおり、手洗い、うがい。
ついでに着替えてから、大雅の部屋をノックした。
返事は、ない。
一瞬躊躇したけれど、そっと、ドアを開けた。
静かに脚を踏み入れる。
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