苺祭的遊戯(ショートストーリー集)
「んなわけないでしょうっ。
 っていうか、こんなところで抱きつかないでっ」

私は精一杯強い口調で(もちろん小声で)伝えてみせる。
キョウはくしゃりと私の髪を撫でて、その形の良い紅い唇を耳元に寄せた。

「分かるよ、ユリア。
 ここで欲情したら困るものね」

……はぁ?

ああー、もう。
分かるよ?

人間と悪魔、分かり合える日なんてきっとこないって薄々感じてはいる。

でもね?
背中から抱きしめられたくらいで欲情するわけないっていうか。
そもそも、私が言いたいのはそんなことじゃなくってっ!!


何から伝えたら良いのか分からず、口篭る私を見つめるキョウの眼差しは、差し詰め幼子(おさなご)を見つめる親のように慈愛に満ちた優しいものだった。


ふぅ。
悪気は無いのよね、いつだって。



……頭が痛い。

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