白煙の向こう《短編》
浅倉と俺は下宿先がわりと近くて、よく深夜にどっちかの家で飲んでいたような仲だった。

ジャージ姿が互いの間ですっかり板についていた俺たち。
キッチリ絞められた真新しいネクタイに、軽く照れ臭さを覚えてしまう。

…まぁそれでも、中身は大学時代から大して進歩していないのだけど。


「仕事パソコン関係やっけ?」

「うん、吉原はアレやろ。塾の講師みたいなやつ?」

「そうそう!人気講師よ〜。とくに女生徒から」


あっそ、と棒読みな台詞を吐いて、浅倉は笑った。ビール半分で、目のまわりが赤くなっている。

浅倉は弱くはないけれど、すぐにそこだけが赤くなるから、まるでパンダみたいだと昔よくからかったものだ。


「…吉原は変わってへんね」


そんなことを思い返していたら、浅倉がポツリとそう呟いた。半分残っていたビールを一気に飲み干す。


「そう?俺最近大人な余裕が出てきたとしみじみ思うんやけど」

「…そういうとこが変わってへんねん」


浅倉とは逆で、俺はいくら飲んでも全く顔に出ない方だった。それでいて中途半端に強いものだから、酒豪の先輩によく潰されたものだ。

その度に俺を家までつれて帰り、介抱してくれたのは毎回必ず、浅倉だった。申し訳ないほど世話になりっぱなしだった。



…あの冬、たった一度を除いては。



「吉原」

「ん?」

「…美雪ちゃんとは上手くいってんの」


口いっぱいに肉を頬張ったまま、真ん丸い瞳で俺を見る浅倉。


「…あ〜……、うん。ぼちぼち…」

「またケンカ中かいな」
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