ダンデライオン
悠斗くんはふう、と深呼吸をして、口を開いた。

「ここは、母さんとの思い出の場所なんだ。」

「…お母さん、」

悠斗くんのお母さんが悠斗くんがまだ小さい頃にガンで亡くなった。それは有名な話。だから、悠斗くんは定期的に検査をしてるって言っていた。

「よくここに来て、母さんの手作りの弁当を食べた。まだ小さかったから、うっすらとしか覚えてないのが、悔しいよ。」

母さんの声も思い出せない、そうか細い声で言って、涙を一筋流した。

気の利いた言葉を思い浮かべないあたしはただ俯いた。

「母さんは…本当に、強かった。いつも毅然としてた。抗がん剤で髪が抜けても、笑ってた。坊主でもイケてるでしょ、っておどけてた―俺の前では。俺が病室を出たらせきを切ったように声を出して泣いてた。」

悠斗くんは涙を流して、お母さんの話をした。
気付いたら、あたしも涙が溢れて止まらなかった。

「真澄ちゃん、泣いてくれてありがとう。」

涙で濡れた顔で笑顔を取り繕う悠斗くんはその腕であたしを抱きしめた。
震える背中をあたしはそっと撫でた。あたしにはこれしか出来ないから。
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