ダンデライオン
「俺は弱い人間なんだ。人一倍、な。
日に日に弱る暁美を見るのが辛かった。抗がん剤の副作用で苦しむ暁美を、見るのが辛かった。
…暁美の最期を見取るのが怖かった。
軽蔑されても構わなかった。暁美が暁美じゃなくなるのが、怖くて、恐ろしくて逃げ出したんだ。
本当に愚かだった。
今は後悔しかない。もう少し、暁美と過ごしたかった。暁美はいつまでも、暁美でそのまま変わってない。変わったのは、俺だったって今更気付いたんだ。
馬鹿だよ、俺は…。」

「父さん…、母さんは確かに毎日苦しんでた。それでもたまに見舞いに来る父さんを見るとさっきまでの辛い顔が嘘みたいにキラキラした笑顔になったんだ。
父さんがもっと傍にいてくれたら母さん…穏やかに逝ったと思う。」

あたしはゆっくり踵を返した。悠斗は、ようやくお父さんと仲直り出来たんだ。

悠斗のお父さんがしたことは、確かに正しいことじゃないかもしれない。
最愛の人の死は想像以上に怖いものだから…逃げ出したくなるのは、わかるような気がする。

でも、逃げないで立ち向かうべきだった。その人の為、自分の為に。
現に悠斗のお父さん、後悔してる。
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