ダンデライオン
「席は、最前列の真ん中。」
「は、はい…」
ドキドキ、ドキドキ
心臓がせわしなく動く。
優しい笑顔を浮かべて、悠斗くんはそう言ったんだ。
「君のこと、可愛いなあって思ってたんだ。」
「えっ…」
顔が熱い。
まるで、炎に燃やされたみたいな、熱さを感じた。
「大勢いた観客で、君は一際目立ってたよ。」
黒縁の眼鏡の奥にある彼の瞳は、あまりにも甘く、そしてキラキラと宝石のように輝いていた。
「あ、の…その、それって…どういう意味ですか?」
緊張で声が震える。
そんなあたしを見て、小さく微笑み、彼は言う。
「一際可愛いってこと。それに存在感もあって。
もし君が業界の人だったら一緒に仕事したいなって思ったよ。」
ああ、今あたしは夢の中にいるんじゃないか…そんな錯覚に陥った。
「あれれー?ゆーちゃんベタ褒めじゃんっ!」
恐らく軽く酔っ払ってる奈穂美ちゃんはニヤニヤと笑いながら、悠斗くんを指差した。
「まーね。それよりナーナ飲み過ぎだぞ?」
「大丈夫だってばー!」
"ゆーちゃん"、"ナーナ"
そうあだ名で呼び合う仲なんだって、羨ましく感じるあたしってどこまでおこがましいんだろう。