ダンデライオン

時々、沈黙が流れることがあったけど、気まずい感じじゃなくて、話さなくていい、そんな時間だった。

それは、あたしだけだったかもしれないけれど…。

「…あ、ここです。あたしの家。」

見慣れた住宅街の一角。
見慣れた我が家。

もう、家に着いてしまった。

「案外、俺ん家と近いんだね。」

「そうなんですか?」

初めて知った。
憧れの、悠斗くんが割と近くに住んでたなんて。

「あ、携帯貸して?」

そう言われるがまま、あたしは彼に携帯を手渡した。


何をするのか見ていたら、恐らく悠斗くんの携帯とあたしの携帯を赤外線通信をしていた。

「…よし!はい。」

2つの携帯を交互に見て、頷き、あたしに満面の笑みを浮かべて携帯を返した。


「俺の番号とアドレス。いつでも連絡して。」

「…え?」

「俺も連絡するから。」

おやすみ、と小さく囁くように言い、あたしの頭をぽんぽんと叩いた。

「おやすみなさい…それと、送ってくれてありがとうございました。」

そう頭を下げて、車を降りた。

あたしは悠斗くんの車のランプが見えなくなるまでただ立ち尽くしていた。

ほのかに残る、彼の残り香に包まれて…。
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