ダンデライオン
そのブログには、悠斗くんの写メも載せてあった。穏やかな表情の悠斗くんが、そこにはいて。手にはその蝉時雨の台本。

「よかったな、蝉時雨…」


瞳を伏せて映画を思い出す。空がかっこよかった。
ひたむきに生きるその姿勢が、かっこよかった。
「また観たい。」そう素直に思う映画。きっと、悠斗くんが出なくてもあたしはこの映画を好きになったと思う。

その映画を思い出して、窓に視線をやる。眩しい太陽に、蝉の鳴き声。
今、私は生きている。
それってすごいことなんだなあと改めて感じた。

「真澄、お昼ご飯出来たわよ。下りてらっしゃい。」

コンコンとドアをノックする音と、お母さんの声が廊下から聞こえる。その声に返事をして、あたしは携帯を閉じた。
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