ダンデライオン
「お母さんは、後悔しなかったの…?」

「え?」

「検察。本当は辞めたくなかったんじゃないの?」

そう問い掛けるとお母さんは小さく微笑んだ。愚問だ、と言わんばかりに。

「思わなかったわ、そんなこと。これっぽっちもね。」

コーヒーを煎れながらあたしに背を向けて答えた。

「…ほんと?」

「ええ。だって、お父さんと出逢えて、真澄と雅巳を授かって、家族になった。その家族の為に家事をする。そんな平凡のような幸せな時間。それは検察官を辞めてでも手に入れたかったささやかな幸せだったの。
お母さん、幸せだから辞めたの。」

はい、と湯気が立つコーヒーを差し出した。

「砂糖とミルクは…」

「あ、あたしでやるから!」

「そ?ありがとう。」
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