流星
とりあえず最低限の荷物は持った。
家具も送ったから明後日には届くだろう。
「本当に大丈夫?」
「なにが」
「一人暮らしなんてできるの?」
「なんだよ今さら。今までそうだっただろ」
笑いながら答えると、母は少しだけ寂しそうに「…そうね」と微笑む。
いつもそうだった。
兄貴が死んだときも、母は泣かなかった。
父のほうが涙ぐんでいたくらい。
母は強い人だとわかっていたが、当時中学生だった俺には理解できなかった。
そして問いかけてしまった。
健兄が死んだのに悲しくないのか、と。
もし今からその場にいけるなら、その頃の俺をぶん殴ってやりたい。
悲しくないわけねぇだろうが。
『……悲しいときこそ、信じたくなくて、泣いたら本当なんだと思ってしまうから、泣けないのよ。ごめんね、勇人…』
その言葉を聞いたのは、問いかけた日の夜のことだった。
母さんの目は、真っ赤になっていた。