“俺様”大家の王国
 


顔が、やけに近い。

私の身長に合わせて、少し屈んでくれてもいるようだった。

しかし私は、これで真正面しか向けなくなってしまったので、

嫌になるくらい緊張する。

……さっきまでは何ともなかったのに、

心なしか体温が上がっていく気がした。

あわわわわわわわわ……!
 
その時、車内放送が流れた。

もうすぐ、降りる駅だ……。

幸い、開くドアは私の方だ。

人を掻き分けて、向こう側まで行く必要はない。

(でももう無理だよ! 

うわあああっ、早く降ろしてー! 

おじさーん!)
 

運転手がおじさんかどうかも分からないのに、私は必死に訴えていた。

頭の中はパニックだ。



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