“俺様”大家の王国
彼女は、二児の母だ。
二人とも女の子で、上の子は中学生だという。
和食屋『たま』に通勤十五年というベテランで、
難なく仕事をちゃきちゃきこなす彼女にとって、
しばしば私の行動は要領が悪いと見えても仕方ない。
「でもま、そこが奈央ちゃん、って感じもするけどね」
「えへへ……」
バイトを始めてから、愛想笑いが上手くなったと思う。
返答に困った時は、フル活用だ。
現に、私はこの方法で何度か窮地を切り抜けてきた。
もっとも、通じる相手かどうかを見極める段階から、始まるわけだけど。
「あ、お客さん」