“俺様”大家の王国
『そうだ、彼に逆らってはいけないのだ』と、私はほとんど義務的に念じた。
すると彼は、驚いたように目を開いて、
「いえ、我儘でしたらどんどん言って下さい。
今朝も言いましたよね、奈央さんは『大切な人』だって……だから、いいんです。
何だって、してあげたいんです」
「でも、それじゃあ……」
「それじゃあ?」
復唱されて、ちょっとどきりとなる。
「…………悪いです。
だってここに来てから、私は十郎さんの為になる事を、
ほとんど何もしてないんですから」
パレスにいた時は、食事の支度という形で、私は彼に奉仕していた。
ところがここ数日は、食事の支度はおろか、
今日だってまともに仕事らしい事が出来なかった。
優しくしてもらえて当然だ、なんて思えるほど、
私は自分を愚かじゃないと思いたい。
恩にきちんと報いないのは、何よりも悪い事なのだから。
「なんだ、そんな事気にしてたんですか……」
十郎さんは、小さく笑った。
「なら……そうだな。
今、ちょっとだけ僕の言う事聞いてくれますか?」
「え? あ……はい」