“俺様”大家の王国
ミエロのレッスン
――第二の避難所にして、違った意味でだんだん危ない場所になりつつある、高級マンション。
「ただいま……戻りました」
何となく、「ただいま」ではいけない気がして、ぎこちなく付け足した。しかし。
「あ、来た」
顔を出したのは、ミエロだった。
てっきり十郎さんしかいないのだと思っていたから、何だか拍子抜けした。
「十郎と拓海は仕事~」
私が訊こうとしていた事を、ミエロが先回りして答えた。
「俺様は待ち伏せという名の留守番~」
歌うように節を付けて、意味の分からない事を言った。
「何ですかそれ」
鞄を置くと、ミエロが「いや、言葉のまんまだし」と言った。
「あっちの部屋でピアノ見付けた。
アップライトのだけど、すげー高いやつ。
確認したら、ギリギリ音生きてたから、充分だ」
「だから、何に」
「何って、俺様のレッスン」
「は?」