“俺様”大家の王国
「……俺は、あんな甘ったれたような声で、この曲を歌ってほしくなかった。
『自分なりの解釈』? 『努力したつもり』?
そんな言い訳が通用するとでも思ってんのかよ。
泣き落としとか……だから、ああいう人種は嫌いなんだ。
本当に努力していようが、していまいが、どうでもいい。苛々する……」
事は、彼の中で「苛々する」だけでは済まされなかったらしい。
新しく曲を書こうとすると、怒りが蘇って来た。
悔しさよりも強い感情。憎い。
けど「憎悪」というよりは悲しみに近い。
ある日気付くと、彼の心を慰めるような、彼の好きな音楽は、彼の中からふっと姿を消してしまっていた。
焦れば焦るほど、音は絶望と怒りに支配される。
もうめちゃくちゃだ。
そんな時出会った理想の声が。
私だったらしい。
「お前の声は、野生動物みたいに凛としてる」
……悪口ではないのだろう。でも、微妙なコメントだ。
「俺の曲のイメージを取り戻すのに、必要な声だ」