“俺様”大家の王国



緊張する。

本当に、私なんかでいいんだろうか、とも思う。

だけど、何かに打ち込みたいような、

どうにでもなればいいと思うような、やけっぱちの気持ちも、少しじゃなくだんだん強くなってきた。
 

これが、覚悟か。
 

しかし、私の決意とは関係なく、ミエロは素人の私に平気でぽんぽん怒鳴った。


「ああ、高音でまた喉に力入ってる! 腹から声出すんだってば!」

「難しいんです! そんな言われても、急に出来ません!」

「嘘だ、前は出来てた!」

「前は出来てても今は出来ないーっ!」

「だから腹式呼吸だよ! 横隔膜! 肺じゃなくて! 寝てる時の呼吸法!!」


「急にそんな事言われても……!」

「うっせえ! そこは妥協出来ない!」

「うー!」

 

歌い直し、歌い直し、結局ミエロは伴奏の手を止めて、私に言った。


「腹式呼吸……分かんねえなら、いっそ一回ここで横になれ」

「床にですか?」



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